タリバンが制圧後の「アフガンの実情」を現地出身の医師に聞く【レシャード・カレッド×中田考】第1回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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タリバンが制圧後の「アフガンの実情」を現地出身の医師に聞く【レシャード・カレッド×中田考】第1回

■アフガニスタンの医療の実態

 

中田:カンダハールのレシャード先生のクリニックのこれまでの活動についてまず教えてもらえますか。

レシャード:私はソ連軍が侵攻してきた次の年1980年から毎年難民キャンプに行って医療活動をやらせてもらいカレーズの会を立ち上げました。最初はNGOでしたが今はNPO法人になっています。ゼロからスタートしたのですが、今まで67万人の患者さんを無償で治療してきました。それから21万人の子供達に予防接種をしています。実はアフガニスタンではお産で母親や赤ちゃんが亡くなるケースが非常に多く、いまだに破傷風がものすごく多いんです。お産の時に破傷風になる。だから、子供が産める年齢の15歳から45歳の女性に、破傷風の予防接種をやるようにしています。これまで約59,000人の女性に破傷風の予防接種をしてきました。

 ありがたいことに、タリバンがカンダハールを支配してからも、うちのクリニックは順調に活動できています。実は、タリバンがカンダハールを制してから数日以内に我々カレーズ会のクリニックを視察にやって来まして、「今まで一生懸命やっていることは我々も以前から知っているし、ぜひとも継続してください」と話がありました。

 その際我々のスタッフは彼らに「このクリニックでは24時間365日の体制でお産をやっています。女性のスタッフでないとどうにもならないので、そういう女性のスタッフたちがちゃんと出勤して、ちゃんと仕事をしてもらわないとクリニックが成り立たない」という話をしまして、タリバンからも「それは十分に分かってます。クリニックへの通勤時はヒジャブ(女性が頭を覆う布)をしたりブルカ(女性が頭を覆うヴェール)をかぶってもらいますが、クリニックの中ではどうぞ皆さん今まで通りに続けてください」と言っていただきました。

 事務方の女性に対しては多少厳しいところもあるようで、どの辺まで厳しいのかなかなか読めない部分もありますが、少なくとも女医さんや看護師、助産師といった人たちについては、一切問題なく仕事が続けられております。

 一方で、我々はワクチンの接種をやっておりますけれども、ワクチンについては、正直言ってしっかりできていない部分があります。

 ワクチンは、クリニックで接種する場合と家々を周って接種する場合がありますが、家々に行くときには女性でないと家に入れません。歩いて周って他の家に行くようなことが少し制限されておりますので、なかなか滞ってしまうというのがひとつ。

 もうひとつはワクチンそのものの問題です。ワクチンのアンプルをユニセフから頂くのですが、これに少し制限が加わっていまして、ワクチンが届かないこともあります。ユニセフにしてもWHOにしても、職員がなかなか出勤できていないので、そういう制限はでてきます。

 またNGO”BARAN”という支援団体が、USAID(米国国際開発庁)というアメリカ政府の援助組織が行うアフガニスタン医療支援を通じて、カンダハール州を含む複数の州で公立診療所の管理・運営を一手に引き受けていたんですが、このBARAN管理下の診療所が活動をほとんど停止しているようです。我々のクリニックにもその分の患者さんがいっぺんに来るようになってしまっています。

 それでも職員は一生懸命対応してくれていますが、問題はやっぱりお金のことです。患者さんにもお金の余裕がないですし、処方箋を出して外で買ってくださいというわけにもいかないので、現在我々は薬は全て無償で提供しております。ですから患者さんに提供する薬をどうやって買うか、それは少し困っております。

 アメリカと国連はタリバンをテロ組織に認定しているので、タリバンが815日にカブールを征圧するとアフガニスタンの銀行の資産を凍結してしまいました。それで当初は1週間に1200ドルしか預金を下ろせませんでした。200ドルでは薬も買えません。10月初頭から国際社会、特にアメリカが、アフガニスタンとのお金の出入りの制限をほんの少し緩和しました。1週間に持っているお金の5%までは出せるといったような制限は加わりましたが、それでも前より少しは薬を買えるようになりました。

 職員の給料は、銀行の営業停止が原因で8月は遅れてしまいましたが、9月に2か月分を銀行振り込みで支払えました。しかし、職員は現金を手にするのが大変で、これは依然として大きな問題です。職員も食べていかないといけないわけですから。この現金引き出しの規制という金銭的な部分がネックになって、活動に制限が加わってしまっているのが現状です。

 

(第2回につづく)

 

構成:甲斐荘秀生

 

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◉中田考『タリバン 復権の真実』出版記念&アフガン人道支援チャリティ講演会

日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30

場所:「隣町珈琲」 品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1

◆なぜタリバンはアフガンを制圧できたか?
◆タリバンは本当に恐怖政治なのか?
◆女性の権利は認められないのか?
◆日本はタリバンといかに関わるべきか?
イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。

    参加費:2,000円 
    ※当日別売で新刊『タリバン 復権の真実』(990円)を発売(サイン会あり)

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    『タリバン 復権の真実』

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    「西側メディアに惑わされるな! 中田先生だけが伝える真実!!」

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    なかた こう

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    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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